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那覇地方裁判所名護支部 平成6年(ワ)105号 判決 1996年2月20日

主文

一  被告當山剛は原告に対し、金四二九〇万円及びこれに対する平成六年一一月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告やんばる農業協同組合は原告に対し、原告の被告當山剛に対する本判決が確定したときは、金三二七〇万七六四三円及びこれに対する右確定の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告と参加人との間において、参加人が別紙請求債権目録記載の請求権を有することを確認する。

四  被告やんばる農業協同組合、同當山剛は参加人に対し、連帯して金二五九〇万四九三七円及びこれに対する平成七年一〇月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  原告の被告やんばる農業協同組合、同當山剛に対するその余の請求をいずれも棄却する。

六  訴訟費用中当事者参加によって生じた部分は、原告、被告やんばる農業協同組合及び同當山剛の負担とし、その余の費用はこれを五分し、その四を同被告らの負担とし、その余は原告の負担とする。

七  この判決は、第一項及び第四項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  A事件

1  被告當山は原告に対し、金四四〇〇万円及びこれに対する平成六年一一月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告農協は原告に対し、被告當山に対する本判決が確定したときは、金四四〇〇万円及びこれに対する平成六年一一月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  B事件

主文第三、四項と同旨

第二事案の概要

A事件は、原告が参加人に対する金四〇〇〇万円の求償金債権に基づき参加人が被告當山に対して有する損害賠償請求権を金四〇〇〇万円の限度で債権差押及び転付命令(那覇地方裁判所名護支部平成六年(ル)第一四六号、同年(ヲ)第六〇号債権差押申立及び転付命令申立事件の債権差押及び転付命令、以下「本件転付命令」という。)を得て、本件転付命令は参加人及び被告當山に送達されて確定した。そこで、原告は、被告當山に対し、右金四〇〇〇万円の限度で本件損害賠償請求権を取得したとして、被告當山に対し、後記の交通事故(以下「本件交通事故という。)につき自賠法三条に基づいて損害賠償の支払を求めるとともに、本件加害車両につき被告當山を被共済者として自賠責共済契約及び自動車共済契約(共済金額無制限)を締結していた被告農協に対し、自動車共済契約に基づき、本件転付命令を受けた金四〇〇〇万円及び弁護士費用金四〇〇万円の支払を求めているところ、参加人が被告らに対し、自賠責共済契約に基づき損害賠償請求をしているので、自動車共済契約に基づく損害倍償金が原告の右請求金に満たない場合は、不足分を自賠責共済契約に基づきその支払を求めた事案である。

B事件は、A事件に対する独立当事者参加事件であり、参加人は、原告に対し、主文第三項、被告らに対し、主文第四項に各記載のとおりの判決を求めた事案である。

一  争いのない事実等

1  本件交通事故

訴外仲田肇(以下「訴外仲田」という。)は、次の事故により受傷し、事故当日に死亡した。

事故発生日時 平成五年九月三〇日 午前一〇時五分ころ

発生場所 恩納村字谷茶一四九六番地 リザンシーパークホテル谷茶ベイ付近の国道五八号線上

加害車両 特殊自動車(沖八八さ二四二八)運転者被告當山

被害車両 普通乗用自動車(沖三三せ三八二二)運転者訴外仲田

事故の態様 仲泊方面から名護方面に向かって、前記事故発生道路を直進していた加害車両が、対向車線に進入して対向車線を走っていた被害車両に衝突した。

2  責任原因

(一) 被告當山の責任原因

被告當山は、本件加害車両を所有し、自己のために運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償法三条により本件交通事故の損害賠償責任を負うものである。

(二) 被告農協の責任原因

被告農協は、本件加害車両につき被告當山との間で自賠責共済契約及び自動車共済契約(共済金額無制限)を締結し、本件交通事故は同各共済契約期間内に発生したものであるから、被告當山が訴外仲田の相続人またはその承継人に対し、損害賠償金の支払をしたときは、被告當山に対して共済金を支払う義務を負うものである。

また、被告農協は、自動車共済約款第二三条に基づき、判決により被告當山の損害賠償支払義務が確定したときは、訴外仲田の相続人またはその承継人に対して直接損害賠償金を支払う義務を負うものである。

3  訴外仲田は、本件交通事故当時、株式会社エイデン、合資会社名護電気工業を経営し、少なくとも年間金四九二万円の所得を得ていた。

訴外仲田は、死亡当時満六一歳であったから一〇年間就労可能であった。よって就労可能期間の新ホフマン係数は七・九四五となる。

4  訴外仲田には、妻芙美、長女利美子、二女ひとみ、三女純子、長男敬の共同相続人がいたが、同人らは平成五年一二月一六日那覇家庭裁判所名護支部に相続放棄申述をして相続の放棄をした。そのため、訴外仲田の母親である参加人が唯一の相続人となった。

5  原告は、参加人に対し、那覇地方裁判所名護支部平成六年(ワ)第五七号求償金請求事件の確定判決に基づく金四〇〇〇万円の債権を有していたところ、右債権に基づき参加人が被告當山に対して有する損害賠償請求権を金四〇〇〇万円の限度で、平成六年一〇月一九日付けで本件転付命令を得て、本件転付命令は、参加人に対し、同年一一月一日送達され、第三債務者である被告當山に対し、同年一〇月二一日送達され、不服の申立てなく確定した(甲第三、第四号証及び弁論の全趣旨)。

被告農協は、自賠責共済金三〇〇〇万円のうち、金六四四万五〇六三円を訴外仲田の妻や子に支払ったのみで、参加人及び原告には支払を拒絶している。

二  争点

(原告適格の有無)

1 被告らの主張

(一) 本件転付命令は、平成六年一〇月一九日になされているが、それ以前に、訴外有限会社白金商事(以下「訴外会社」という。)が本件の損害賠償請求権を差押えている。

したがって、仮に、本件の損害賠償請求権が存在するとしても、民事執行法一五九条三項により、本件転付命令は効力を生じないから、原告は、本件の損害賠償請求権を本件転付命令により取得しておらず、本件訴訟の原告適格を欠くものである。

(二) よって、原告の本件訴えは却下すべきである。

2 原告の主張

(一) 訴外会社の申立てによってなされた債権差押命令は無効である。参加人は、平成五年九月当時より高齢と病気のため意思能力がなかった。

ところが、訴外会社は、参加人が意思能力を有しないのであるから、特別代理人を選任して同代理人宛に訴状、判決、差押命令等の裁判書類を送達して裁判手続を進めなければならなかったにもかかわらず、右手続きをしないで、裁判書類を参加人の娘小橋川米子に送達して判決を得、同判決に基づいて被告ら主張の債権差押命令をなし、同命令を小橋川米子に送達している。

よって、右判決及び債権差押命令は適法に送達されておらず無効というべきものであるから、被告らの主張は理由がない。

(二) 仮に、訴外会社の右債権差押命令が有効だとしても、同命令で明らかなように訴外会社が差押えたのは参加人が被告農協に対して有する金四九二万三〇七六円の損害賠償債権であるから、本件転付命令の額金四〇〇〇万円と合計しても、本件損害額を下回るものであり債権差押えと転付命令とが競合することにはならないから、被告らの右主張は理由がない。

(三) 仮に、本件転付命令が効力を有しないとしても、原告の申立てによってなされた債権差押命令の効力は有効であるから、原告は債権差押命令により被告らに対し、民事執行法一五五条一項に基づき取立権を有するものであり、適法に本件請求をなしうるものである。

(訴外仲田の損害)

1 原告及び参加人の主張

(一) 逸失利益 金二七三六万二五八〇円

訴外仲田は、本件交通事故当時少なくとも年間金四九二万円の収入を得ており、死亡当時満六一歳であったから一〇年間就労可能であったので、就労可能期間の新ホフマン係数は七・九四五となる(この事実は、全当事者間において争いがない)。

訴外仲田は、妻や子一人(仲田敬)、母親ウシ(参加人)を扶養し、家計を支える大黒柱であったから、同人の生活費控除率は、三〇パーセントとするのが相当である。よって、訴外仲田の逸失利益額は、次のとおりとなる(この事実は、原告と参加人間において争いがない。)。

四九二万円×〇・七×七・九四五=二七三六万二五八〇円

(二) 慰謝料 金二六〇〇万円

2 被告らの主張

右主張は争う。

(弁護士費用)

1 原告の主張

原告は、被告當山が任意に支払をしないので止むなく弁護士費用を損害認容額の一割と約して、本件弁護士を依頼して本件訴訟を提起した。弁護士費用は、本件交通事故に起因する相当範囲内の損害である金四〇〇万円が相当である。

2 参加人の主張

被告農協は、支払を拒絶しているため、参加人は弁護士を依頼することを余儀なくされたが、その相当費用は、参加人の請求額金二三五五万円の一割内である金二三五万円を下らない。

3 被告らの主張

原告及び参加人の右主張は争う。

第三争点に対する判断

一  原告適格の有無について

被告らは「本件転付命令は、民事執行法一五九条三項により、効力を生じない。したがって、原告は、本件の損害賠償請求権を本件転付命令により取得しておらず、本件訴訟の原告適格を欠くものであるから、原告の本件訴えは却下すべきである。」旨主張する。

しかしながら、甲第七号証(鑑定人国吉孝夫作成の鑑定書)、乙第七号証(禁治産宣告の審判書謄本)及び弁論の全趣旨によれば、参加人は、遅くとも平成五年ころからは、老人性痴呆症のため、記憶障害、思考障害、判断障害、性格変化が認められ、社会適応性を欠き、異常行動が頻回に認められたので意思能力を有せず、訴訟能力を有しなかったことが認められる。

したがって、訴外会社の申立てによってなされた債権差押命令は、訴訟能力を有しなかった参加人に対して送達されたものであるから、右差押命令は、無効なものというべきである。

なお、本件転付命令は有効なものである。

よって、被告らの前記主張は採用することができない。

二  訴外仲田の損害について

1  逸失利益 金二七三六万二五八〇円

訴外仲田は、本件交通事故当時少なくとも年間金四九二万円の収入を得ており、死亡当時満六一歳であったから一〇年間就労可能であったので、就労可能期間の新ホフマン係数は七・九四五となることは、全当事者間に争いがないところ、生活費は、収入の三〇パーセントと認めるのが相当であるから、同人の死亡による逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合により中間利息を控除して算定すると、次の計算式のとおり、金二七三六万二五八〇円となる。

(計算式)

四九二万円×〇・七×七・九四五=二七三六万二五八〇円

2  慰謝料 金二六〇〇万円

本件事故の態様、訴外仲田の本件交通事故当時の年齢、親族関係その他本件に現れた諸般の事情を併せ考えると、本件交通事故によって死亡した訴外仲田の慰謝料額は金二六〇〇万円と認めるのが相当である。

三  参加人の相続について

訴外仲田の相続人は、第二次相続権者である参加人のみであるから、参加人は前記二の損害賠償請求権合計金五三三六万二五八〇円を相続によって取得したことが認められる。

四  弁護士費用について

本件事案の難易、審理の経過、認容額その他本件に現れた諸般の事情を併せ考えると、本件交通事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害は、原告については金二九〇万円、参加人については金二三五万円と認めるのが相当である。

五  結論

以上の次第で、被告當山は、訴外仲田の相続人である参加人に対し、本件交通事故に基づく損害賠償として前記三の合計金五三三六万二五八〇円の支払義務を負うところ、原告は、被告當山に対し、金四〇〇〇万円の限度で本件損害賠償債権を取得しているので、原告の被告當山に対する本訴請求は、右金四〇〇〇万円と前記四の弁護士費用金二九〇万円の合計金四二九〇万円及びこれに対する本件不法行為の後の日であり、かつ、本件転付命令が参加人及び被告當山に送達された後の日である平成六年一一月一二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があり、原告の被告農協に対する本訴請求は、被告當山に対する本判決が確定することを条件として、右金五三三六万二五八〇円から金二三五五万四九三七円(自賠責共済金三〇〇〇万円から訴外仲田の妻や子らが支払を受けた金六四四万五〇六三円を控除した金額)を控除した金二九八〇万七六四三円と前記四の弁護士費用金二九〇万円の合計金三二七〇万七六四三円に対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから、これを認容し、その余の請求はいずれも理由がないから、これを棄却し、参加人が原告と参加人との間において、参加人が別紙請求債権目録記載の金二三五五万四九三七円の請求権を有することの確認を求める参加人の原告に対する本訴請求及び参加人が、被告らに対し、連帯して右金二三五五万四九三七円と前記四の弁護士費用金二三五万円の合計金二五九〇万四九三七円及びこれに対する独立当事者参加申立書が送達された日の後の日であることが記録上明らかである平成七年一〇月一〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める参加人の被告らに対する本訴請求はいずれも理由がある。

(裁判官 喜如嘉貢)

請求債権目録

一 金二三五五万四九三七円

ただし、被告當山が訴外仲田肇に対し、平成五年九月三〇日に起こした交通事故により発生させた損害に対する損害賠償請求権の一部並びに同損害につき、被告やんばる農業協同組合が、自賠責共済契約により、支払義務を負う共済金支払請求権

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